ゲノム編集卵の開発に関わるキユーピー社への質問と回答

キユーピー株式会社が広島大学と共同で、ゲノム編集技術で卵のアレルゲンのひとつオボムコイドを作らない鶏を開発し、国立相模原病院で臨床試験を実施するとの発表があったので、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンと日本消費者連盟は、同社に対して、安全性が十分確認されていないゲノつ編集卵の投与をやめるよう要請するとともに、安全性について質問状を送りました。回答内容では安全性上の懸念は払拭されないので、引き続き開発中止を求めていきます。

質問状(2024年1月10日)回答(2024年1月23日)
1、この讀賣新聞の報道は事実ですか。事実である場合、具体的にいつ頃から、どのような方法で臨床試験を開始しますか。読売新聞の報道は事実です。今後臨床試験に関しては、今年から実施予定で、方法については新聞記事記載の通り、試験に同意頂いた方を対象に安全に配慮して経口負荷試験を実施する予定です。
2、当該ゲノム編集タマゴは、厚生労働省により届出受理されていません。厚労省による確認も経ないで、臨床試験を実施することは問題ではないですか。臨床試験にあたり、事前に同省と相談していますか。臨床試験を実施するにあたっては、厚生労働省に事前の相談を行っております。また、ゲノム編集食品に関する届出に必要な安全性の確認も、広島大学との共同研究で終了しています。
3、ゲノム編集技術による畜産動物への遺伝子の改変は、アニマルウェルフェアの観点から行うべきではないとする指摘があります。オボムコイドをノックアウトすることで、ニワトリの健康な生育になんらかの問題が生じる可能性も考えられます。畜産の持続可能性および倫理的な観点から、この点についてどのように考えていますか。鶏の健康への影響は重要な要因と考えており、数年にわたって生育状態を観察しています。これまで鶏の生育にもたらす影響について、問題は認められていません。今後も慎重に確認を重ねる予定です。
4、さまざまな調査において、ゲノム編集食品を食べたくないという消費者は少なくないことがわかっています。にもかかわらず、ゲノム編集食品の開発を行うのはなぜですか。卵アレルギーはわが国で一番多い食物アレルギー疾患であり、多くの患者様やそのご家族も大変ご苦労されています。そういった方々が少しでも安心して食生活を送れるようになり、QOLが向上することを願い研究を進めています。安全と安心に関する社会コミュニケーションについて、これからも十分に考慮して行く考えです。
  
再質問状(2024年6月7日)回答(2024年6月20日)
1、前回、安全性の確認を終了しているとご回答いただきましたが、具体的にどのような安全性の確認をされましたか。国立大学法人広島大学様との共同研究にて、下記3点について、確認を行っています。
1)鶏卵中にオボムコイド及びその断片も含まれていないこと
2)鶏卵中のオボムコイド以外の成分は通常の鶏卵の成分と変わらないこと
3)全ゲノム解析の結果、鶏のオボムコイド遺伝子以外には変化がなく、通常の鶏の遺伝子と同等であること
【参考】 リリース  論文
加えて、臨床試験にあたり、一般的な食品としての安全性(微生物試験等)も実施しています。
2、臨床試験では些細な変化も重大な健康影響の兆候として見過ごしてはならないと考えますが、どのような観察をされますか。また、どのような異常があった場合に試験を中止するお考えですか。喫食後、医師が15分おきに観察し、患者様の体調に変化が起きていないか、慎重に経過を確認しています。発疹等、アレルギー症状が少しでも観察された場合、医師が迅速に対応しています。
3、臨床試験の経過、結果はどのように公表されますか。結果がまとまり次第、学会や論文等にて逐次公表していく予定です。
  
再々質問状(2025年1月30日)回答(2025年2月18日)
1、論文に示された遺伝子の変異は、これで全てという理解でよろしいでしょうか。全てということで認識しています。
2、オボムコイド遺伝子のエキソン1をゲノム編集で破壊しましたが、このエキソン1が他のたんぱく質の合成には使われていないという根拠はありますか。オボムコイド遺伝子のエキソン1より生成されるタンパク質は細胞内で処理・分解される部分(シグナル配列を含む)であり、他のタンパク質に使われるという報告はないと認識しています。
3、オボムコイド遺伝子のエキソン3にストップコドンを入れて、エキソン1のゲノム編集によるフレームシフトで生ずる異質なたんぱく質の合成を止めたとあります。変異を起こしたエキソン1、エキソン2を含む本来存在しないアミノ酸配列の短いたんぱく質ができた可能性がありますが、そのチェックは行いましたか。ご指摘の短いタンパク質が鶏卵内にできていないことを確認しています(詳細は、2024年6月20日付け回答書に記載の論文を参照ください)。
4、オフターゲットで変異した遺伝子間配列には他の遺伝子の発現調節に関わっている可能性はないでしょうか。上述の論文でも示しているとおり、ゲノム編集による明確なオフターゲット変異は確認されていません。遺伝子間配列の変異は、すべて個体差の範疇(自然界で起こり得る範囲)と認識しています。
5、オボムコイドは卵白の約10%を占めるたんぱく質ですが、このたんぱく質の欠損によって鶏卵の質や後世代の鶏には大きな変化はないでしょうか。アレルギー低減卵は、物性や風味など、通常の鶏卵とほぼ同等で調理や加工適性も問題なく有することを確認しており、論文・学会等で発表をしています。後世代の鶏についても、通常の鶏と生育状況(健康状態、産卵率等)は変わらないことを確認しています。
6、すでに実施された臨床試験によって、ヒトに対して急性の影響がないことは確認されたかもしれませんが、慢性の影響を調べるために動物実験を実施すべきと考えますが、どうお考えですか。上述のとおり、アレルギー低減卵は通常の卵とオボムコイドを含まない以外、大きな差はないこと等を確認しており、国の指針に準拠し、動物実験は不要(実施が必要な科学的合理性がない)と認識しています。ただし、行政から動物を用いた評価が必要とのご判断をいただいた場合は、その限りではありません。
7、「ゲノム編集卵を製品に使うのはやめてください」と書いたハガキや、お客様窓口や問合せフォームに同様の声は届いていますか。その声をどのように受け止め、対応するご予定ですか。ゲノム編集技術によるアレルギー低減卵については、ご不安の声を頂いている一方で、卵アレルギーでお困りの消費者の方々からは切なるご要望の声など、様々なご意見を頂いています。今後も消費者の皆様の声に耳を傾け、表示などよる選択肢の提示なども考慮しながら、慎重に検討を重ねていきます。
8、カナダでも同様のキャンペーンが行われていることをご存じでしたか。その声をどのように受け止め、対応するご予定ですか。国により様々な状況や考え方があることは認識しています。国際的には、当該国の法令を遵守し、慎重に検討を重ねていきます。
  
質問状(2025年6月12日)回答(2025年6月26日)
1、前回の回答4において、オフターゲット変異が確認されていない旨、遺伝子間配列の変異がすべて個体差の範疇である旨を回答されています。しかし、質問は変異した遺伝子間配列が他の遺伝子の発現調節に関わっている可能性についてのものですので、再回答をお願いいたします。変異した遺伝子間配列が他の遺伝子の発現調節に関わる可能性については、従来の育種による品種改良と変わらない(自然界で起こり得る範囲)と認識しています。
2、前回の回答5において、卵の物性や風味等が通常の卵と同等、と回答されています。オボムコイドはたんぱく質分解酵素阻害作用(トリプシン・インヒビター)があり、卵への細菌感染を阻害すると聞いています。その点は調べていらっしゃいますか。また、後代の鶏の免疫力などへの影響は調べていらっしゃいますか。殻付卵・未殺菌液・殺菌液卵において、微生物挙動を評価しております。その結果、オボムコイドが静菌に関与する可能性は極めて低く、オボムコイドの有無による病原微生物の感染リスクは変わらないことを確認しております。 詳細は日本食品衛生学会第120回学術講演会にて、発表しております。また、後代の鶏に関して「採卵鶏の飼養管理指針」に則り健康状態を注視し確認しておりますが、通常の鶏との差は確認されておりません。
3、鶏卵にはオボムコイド以外のアレルゲンが存在し、加熱等によって減るとはいえ、「アレルギー低減卵」として供給された場合、他のアレルゲンにアレルギーのある方がアレルギーになる可能性もあります。これについてどのようにお考えですか。鶏卵アレルギー患者様でも安全に喫食いただける加熱条件(オボムコイド以外のアレルゲン性が生活する条件)を検討しております。現時点では本鶏卵が生卵として流通することは想定しておらず、上述の加熱処理を施した加工品(例:プリン等)としての社会実装をめざして研究を進めております。ご使用いただく方のリスク誤認がないよう、タマゴ成分の詳細な内容も含んだ適切表示方法も同時に検討していく予定です。
4、臨床試験ではアレルギー反応がただちに現われることがないと確認されたかもしれませんが、長期摂取の影響は分かりません。動物実験でも十分な安全の保証にはならないとはいえ、最低限必要と私たちは考えます。もし開発を続けられるのであれば、動物実験(慢性毒性試験)の実施をご検討いただけませんか。長期摂取への影響については、従来の育種と変わらないと認識しています。 前回のご質問でも返答させていただきましたが、国の指針に準拠し、動物実験は不要(実施が必要な科学的合理性がないと倫理委員会の承認が得られない)と認識しています。ただし、行政から動物を用いた評価が必要とのご判断をいただいた場合は、その限りではありません。